ここ数年の研究により、マッサージには乳がんの女性の免疫力を高める、ぜんそく持ちの子どもは症状が緩和される、手根管 症候群の痛みを軽減するなどの効果があることが分かりました。 また、未熟児の赤ちゃんにマッサージをすることで体重が増加するなど、マッサージの医学的な効果が明らかになったということです。
この研究結果を踏まえ、アメリカ内科学会(ACP)とアメリカ疼痛学会(APS)は2007年度に発表したガイドラインでは、腰痛治療のひとつとしてマッサージを推奨しています。
また、ある研究で明らかになったのは、マッサージ後の身体の変化です。 マッサージにはデトックス効果と血行を良くするということは知られていますが、しっかりとした医学的な裏付けがあったわけではありません。 ある研究によると、45分間のマッサージがストレスホルモンのひとつである「コルチゾール」、炎症やアレルギー反応に関連する「サイトカイン・プロテイン」を減少させ、 免疫力を高める白血球の量を増やすことがわかりました。
米医師会の内科専門誌「Archives of Internal Medicine」で2006年に発表された研究よると、 スウェディッシュ・マッサージ(欧米でオイルを使用したスウェーデン式のマッサージのこと)を受けたで患者は、膝の骨関節炎の症状がかなり改善されたと報告しています。
骨関節炎の患者数名を対象に、マッサージの効果を調べる実験を行いました。 マッサージ療法を受けなかったグループと、1週間に2回のマッサージを4週間、その後1週間に1回のマッサージを8週間受けたグループを比較したところ、 マッサージ療法を受けた患者らは膝の痛みと筋肉の硬直が緩和されるとともに、動作もスムーズになったのだそうです。 また、マッサージ療法を受けた患者らは50フィート(約15メートル)の歩行も速かったのだとか。
研究者らはマッサージの効果を科学的に調べるために11人の若い男性のボランティアを雇い実験を行った。
ボランティアには両足を使う激しい運動を行ってもらい、片側の足のみにマッサージを行った。 そして運動前、運動直後(10分後)、2.5時間後に大腿四頭筋(quadricep)の生検(細い針で組織の一部を採取する検査方法)を行い、 マッサージを受けた足と、受けていない足の組織の状態を調べた。
検査の結果、マッサージを受けた足の組織ではFAKとERK1/2といったシグナル経路が活性化しており、NFκBの核内移行が抑制されていた、 さらに炎症性サイトカインであるTNFα、IL-6の産生量が低減しており、HSP27のリン酸化が抑制されていた。
これらの変化は運動により起こった筋繊維のダメージから生じる細胞ストレスが緩和されている事を示している。 そして、マッサージの効果は筋肉内の乳酸を除去する作用との説もあったが、今回の評価ではマッサージにより筋肉組織の乳酸の量は変化しなかった。 また面白いことにミトコンドリアを増加したり筋肉内の血管を増やし筋肉自体の量を増加させる作用が知られるPGC-1αが活性化していることが確認された。 まとめると、マッサージによる効果は乳酸の除去では無く細胞レベルでの炎症の低減とミトコンドリアの増殖、筋肉再生の促進であると言える。
以前に日本人研究者により報告された研究では運動後の2時間~18時間まで骨格筋のPGC-1αの量が増加していることがマウスを用いた実験で報告されているが、 このPGC-1αの増加がマッサージによりさらに高まっていると考えられる。 マッサージは筋肉のダメージを低減する効果に加え、筋肉再生を促す効果もあるようだ。 マッサージはトレーニングの一部と言えるのではないだろうか。